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最高裁判所第一小法廷 平成8年(オ)1431号 判決 1996年9月26日

《住所略》

上告人

小田壽

《住所略》

上告人

薬師晋一

《住所略》

上告人

堀田敏夫

右3名訴訟代理人弁護士

佐藤義雄

《住所略》

被上告人

脇本重一

右訴訟代理人弁護士

佐々木泉顕

清水直

小竹治

武内秀明

平出晋一

田中寿一郎

右当事者間の札幌高等裁判所平成7年(ネ)第26号、第34号株主の代表取締役の責任追及請求事件について、同裁判所が平成8年4月23日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人佐藤義雄の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる(なお、原判決19枚目表4行目に「商法266条の2」とあるのは、「商法268条ノ2」の誤記と認める。)。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

上告代理人佐藤義雄の上告理由

第一、原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反がある。

一、1審以来本件訴訟の第一の争点は、訴外会社が平塚富士見カントリークラブのゴルフ会員権(以下本件ゴルフ会員権という)を8133万円の代金で購入するについて取締役会の決議が存在したか否かであった。

被上告人は、平成元年9月21日に本件ゴルフ会員権購入を決議した取締役会が開催され、さらに取締役会議事録も作成されたが、その後議事録は紛失したと主張した。

1審判決は、商法260条の4第1項によって、取締役会議事録の作成が義務づけられていること、訴外会社においても取締役会が開催される度に議事録が作成され、保管されていること、本件ゴルフ会員権購入に関する取締役会の議事録だけが存在しないこと、右議事録の存在についての被上告人の対応が不自然であることなどから、本件ゴルフ会員権購入を決議した取締役会決議が存在しなかったと判断した。この点の1審判決の判断は、商法によって作成することが義務となっている取締役会議事録が存在しないことを重視した点で、誠に正当なものであった。しかるに、原判決は、取締役会議事録が作成されたか否かについては判断をしないまま、業務連絡会、常務会、稟議書、取締役会の決算承認など、商法で定められた取締役会決議と直接関係のない会社内の手続きを根拠にして取締役会決議が存在したと判断して、結果的に商法の規定をないがしろにした。

しかも、株主である上告人薬師、同堀田にとっては、同上告人らが関与したことがない右社内手続きを問題にしている。しかし、株主にとっては、本件ゴルフ会員権購入が取締役会の承認決議を得ているか否かだけが問題になるのであって、商法の規定と関係のない社内手続きは問題にならないのである。

二、1審判決は、本件取締役会議事録が作成されたが後に紛失したとの被上告人の主張に対して、当時の取締役会議事録の作成とその保管の状況、本件ゴルフ会員権購入に関する平成元年9月21日と同年12月22日の取締役会の議事録だけが保管されていないことの不自然性、本件ゴルフ会員権購入が取締役会の承認を得ていないことを理由とした上告人小田からの株主としての被上告人の取締役解任提案に対しても、本件訴訟が提起されたことに対しても被上告人と監査役の山田とがともに取締役会議事録の存在を確認していないという同人の証言などをもとに、被上告人の右主張は、不自然、不合理であると判断している。

これに対して、原判決は、「取締役会議事録が存在しないのは承認の決議がなされなかったからではないかとの疑いもないわけではない。」と判示しただけで、被上告人側の証人山田、同田代、同吉岡の相矛盾する証言をもとに取締役会決議があったと結論づけた。

原判決は、取締役会決議を証明するためには欠くことのできない議事録よりも被上告人の作為の可能性が大きい証言を重視するという経験則に反する判断を行ったというべきである。

三、さらに、原判決は、上告人小田が平成4年4月8日付け書面で被上告人の取締役解任提案を株主総会に行うまでは、本件ゴルフ会員権購入についての取締役会承認決議の不存在が問題とされなかったことを考慮すると取締役会の承認があったと認めることができると判示している点も、取締役会議事録を軽視する姿勢を現すものである。

上告人小田の本件訴訟提起までの行動からも理解できるように、取締役の地位にある者が代表取締役の行動を批判することは容易でないのであり、報復を覚悟して行わなければならないのが実態である。それ故に、上告人小田は、自分が取締役の地位を失った時期から本件取締役会決議の不存在を株主総会で問題にしたのである。

第二、原判決は、平成5年改正商法、改正商法特例法による株主の権利拡充の趣旨を理解せず、このためにこれらの法律の解釈を誤ったものである。

一、平成5年改正商法、改正商法特例法は、従来有名無実化していた株主代表訴訟が有効に機能するために、訴額を95万円とし、弁護士費用等の会社への求償を定め、さらには株主の帳簿等閲覧謄写権の要件を緩和して、株主による会社の監視機能を強化した。

従来会社の経営は、代表取締役の権限行使を取締役会や監査役が十分監視することがなかったために株主の利益がないがしろにされてきた。そこで、平成5年改正商法では株主代表訴訟や帳簿等閲覧謄写権などについて株主の権利をより拡充したものである。

したがって、平成5年改正商法後の株主代表訴訟において裁判所は、代表取締役の権限行使を抑制し、株主の権利保護を判断の基準としなければならない。

二、原判決は、平成5年改正商法の趣旨を理解せず、これに逆行する判断をしたというべきである。

商法260条の4第1項と266条第3項とをあわせて考えると、取締役会での議事内容については、議事録の記載によって明らかにしなければならないというものであり、取締役会の審議状況及び各取締役の行為を議事録と関係なく説明することは本来認められないはずである。しかるに原判決は、本件ゴルフ会員権購入後しばらくの期間社内で取締役会の承認決議の不存在が問題にされなかった、本件ゴルフ会員権購入が記載された決算が承認されているなどをあげて、本件ゴルフ会員権購入について取締役会の承認決議があった、と判断した。かかる原判決の裁判所の判断が正当とされるのであれば、取締役会決議がなかったとしても後に代表取締役の意向に従った取締役等が取締役会議事録が存在しなくても取締役会決議があったと述べるだけで足りることになる。これでは、取締役会議事録は、株主の利益保護には有効性を持たない結果となる。原判決は、商法260条の4第1項、266条第3項の解釈を誤ったというほかない。

第三、原判決は、商法266条第5項、268条の2の解釈を誤ったものである。

一、原判決は、被上告人が1審判決で違法な支出であると判断された交際費とその遅延利息合計66万円余を2審の審理中に支払い、これを訴外会社の取締役会が承認したことで訴外会社の損害がなくなったとして、本件交際費についての上告人の請求を理由がないと判断した。

商法266条第5項は、取締役が同第1項1号乃至5号に違反する行為を行ったことによる会社に対する責任については株主全員の同意によらなければ免除することを認めないという規定である。

被上告人が1審判決で違法な支出であると判断された交際費とその遅延利息合計金額を2審の審理中に会社に支払ったということは、右交際費の支出が違法なものであることを認めたものであるから、商法266条第1項に該当する取締役の責任があることも認めたものにほかならない。

二、また、右交際費の支払いは、上告人らが本件株主代表訴訟を起こして1審判決が本件交際費の支出が業務の関係がない違法なものであると判断したためであり、被上告人は本件訴訟が起こされなければ右交際費相当額を会社に支払わなかったことは明らかである。

したがって、右交際費相当額を会社に返還させた本件訴訟についての弁護士費用等を上告人らに負担させたままの状態を放置する原判決は、勝訴株主に弁護士費用等の会社への求償を明確にした改正商法268条の2の規定を無視したというべきである。

以上

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